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不思議いっぱいテングチョウ(所沢市HPふれ里だより平成29年3月号」より

春一番が吹いた後も風が強い日が続き、春めいたかと思えば冬に戻ると言う2月下旬でしたが、3月になり日差しはすっかり『春』になりました。とは言え、まだまだ寒さが残る時期です。
ニワトコは芽吹き、コブシの花が咲き、足下ではヒメカンスゲが咲き、気が付けばアオイスミレも咲いている。
冬の間、シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、コゲラなどは混群をつくっていましたが次第にペアで行動するようになり、木々がまだ葉を拡げない雑木林にさえずりが響いています。

そんな森を歩いていると落ち葉の上にひらりと舞い降りるものがいます。なんだろうと目を凝らしていると、すっと目に入ってくるオレンジと白の斑紋。成虫で冬を越したテングチョウが太陽の光を浴びようと翅を開いたのです。翅を開いた長さは約4センチから6センチ。翅の裏は見事な保護色です。

タテハチョウ科テングチョウ亜科のテングチョウ。日本にはテングチョウ1種のみで、以前は独立してテングチョウ科とされていました。世界中でも10種ほどで、今の姿とほとんど変わらない化石も発見されていて生きた化石とも呼ばれます。
まるで天狗の顔のように見えるところから付いた名前が『天狗蝶』。天狗の鼻のように見えるのは触覚の間にある下唇(かしん)ひげがつきでているからで、パルピというものです。タテハチョウの仲間は比較的大きいのですが、テングチョウのものはとりわけ目立ちます。
日本全国の山地から平地のおもに雑木林周辺にいて、一般的に個体数は多くありません。時に大発生することがあるそうですが、狭山丘陵では複数を同時に見ることはあまりありません。

テングチョウは道路や崖など土の裸出した所に止まり、細い枯れ枝やススキの葉などにも良く止まります。縄張りをつくり、ほかのチョウなどが来ると追い立てます。地味な所に止まる地味なチョウ。そんなイメージもありますが、春や秋には花で吸蜜する姿が見られます。越冬個体が産卵した卵は5月から6月に羽化しますがその後夏眠をするので寝覚めの栄養補給でしょうか。冬眠の前後に盛んに花を訪れるとも言えそうですが、夏眠も冬眠も期間があいまいです。

年1回の発生と考えられていましたが、2回発生することもあるようです。幼虫の食草はエノキ、エゾエノキ、リュウキュウエノキです。
無事に生き延びれば約1年生きるテングチョウ。チョウとしてはかなり長生きです。夏眠していると思うと夏に出会うこともあり冬の陽だまりで日向ぼっこをしている姿も目にします。早春に冬を越したとは思えないような新鮮な個体を目にすることもあり、神出鬼没の感があります。思わぬ時に出会うのに「テングチョウに会えた!」という気持ちにならないのは意外な時に出会うのが普通になっているからかもしれません。長生きだったり良く分からないところが多かったり、風貌だけが『天狗』ではないようです。

春へ春へと目まぐるしく変化する毎日。足元には緑がどんどん広がっていく3月です。成虫越冬をしていたキタキチョウ、ヒオドシチョウ、ルリタテハなどと先を争うように幼虫越冬していたミヤマセセリも成虫になり姿を見せるようになります。足下からほかのチョウを追尾して飛び立ったのはテングチョウかもしれません。


テングチョウ
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コブシ

シジュウカラ


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