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春の妖精、ビロウドツリアブ(所沢市HP「ふれあいの里だより平成30年3月号」より

3月はまさに『春』がはじける時です。ススプリング・エフェメラル(春の短い命)と呼ばれるカタクリやイチリンソウなどの春の妖精たち、いわゆる春植物が花を咲かせます。

これらの花は虫媒花で早春に現れるギフチョウやツマキチョウなどもスプリングエフェメラルと呼ばれますが、受粉に貢献しているのは冬眠から目覚めたマルハナバチの女王バチや、ハナアブの仲間などです。

春にだけ成虫が見られるという点から言えば、ビロウドツリアブも春の妖精と呼びたいものです。

ビロウドツリアブ(ビロードツリアブ)は体長8㎜から12㎜でビロードのような黄色い長い毛におおわれた体に長い口吻が特徴です。ホバリングが得意でまるで空中に吊り下げられているように見えることから名前が付いたとされます。北杜夫の『どくとるマンボウ昆虫記』にも病床で図鑑を熟読して名前を覚え、平癒後に初めて出会ってすぐに名前が分かったとその印象的な姿が描写されています。

日本全土で見られる普通種で、様々な花で吸蜜します。オスの複眼は上方で接していますが、メスは離れています。

ふわふわもこもこの丸い体に長い口吻、ホバリングしながら花の蜜を吸うさまはまさに妖精と呼びたいくらいかわいいものです。出会えるのは3月から5月。まだ風に冷たさが残るころ、日だまりでこの姿を見ると春の訪れを感じます。

アブと聞くと刺されるのではないかと思ってしまいますが彼らが餌にするのは花の蜜や花粉で、人を刺し、血を吸うようなことはありません。ただし、幼虫はヒメハナバチの仲間に寄生します。詳しい生態はよくわかっていませんが、幼虫やさなぎを食べるようです。

地面すれすれを飛んでいる姿が見られることがあっても、卵は必ずしもヒメハナバチの仲間の巣穴に産み付けられるわけではないようです。ツリアブ科のメスの尾端には砂室というものがあり、砂をコーティングした卵を地面にばらまくように産むといわれています。地面にお尻をこすりつけるようなしぐさが見られたら、産卵か砂を補充している尾端接触か、いずれにしても卵には関係しているようです。

日当たりのよい林縁などで見られ庭にも来て、どこにでもいるといわれる割には見逃していることも多いのか、そんなにしょっちゅう出会えないビロウドツリアブ。この謎多き小さな妖精を少し気を付けて探してみてはいかがでしょう。

モズやエナガは巣造りを始め、シジュウカラやヤマガラもさえずり、巣を作る場所を探しています。水鳥たちは北の国へと帰り始めています。ジョウビタキの姿が見られるのももう少しの間でしょう。

独特の香りにあたりを見渡すとヒサカキが花を咲かせています。スギを始め、足元にはヒメカンスゲ。虫のまだそう多くないこの時季には風媒花の花が多く見られます。次々と咲いていくスミレの仲間たちにはビロウドツリアブも蜜を吸いに訪れます。

3月下旬には桜の便りも聞かれ始めます。虫たちだけではなく、メジロやヒヨドリも蜜を吸いにやってきます。

百花繚乱の春はいつも駆け足でやってきます。植物も昆虫も野鳥も、森は日ごとに活気づいていくころとなりました。


ビロウドツリアブ

ヒサカキ

スミレ



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