ヒバリ、雲雀、春の空高く~ふれあいの里だより令和6年4月号~
時は春、
日は朝、
朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、
蝸牛枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
上田敏の訳詩集『海潮音』に「春の朝」という題名で収録されている19世紀英国の詩人ロバート・ブラウニングの詩です。
日本でも数々の文学に出てきたり和歌などにもうたわれたりし、春の季語にもなっているヒバリ。
万葉集では身近すぎたのか3首と少ないですが、
ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく
と大伴家持が詠んでいます。
ヒバリは日本ではほぼ全国の畑地、河原、草原などで繁殖し、北の地方で繁殖するものは冬になると南の方に移動します。
世界的に見てもヨーロッパ・アジア大陸の中部、北部に広く分布し、北西アフリカにも分布します。こちらも北で繁殖するものは冬には南へ移動します。
古くから洋の東西を問わず親しまれてきたヒバリ。今では目にする機会がめっきり減ってしまいました。特に都市近郊では数を減らし、開けた原っぱや麦畑などの減少により生息地が失われてきたのが大きな要因と言えます。
スウェーデンでは大規模集約農業の増大とともに農耕地の生態的多様性が失われヒバリの減少も相当なものでした。そこで『ヒバリの小区画』と呼ばれる農地区画を用意しヒバリが暮らしやすい環境を作ったところ3年間で劇的に回復したそうです。
ヒバリは体長17cmでスズメより大きく雌雄同色で見分けは付きにくいものの、オスは頭頂の羽をよく立てるのに対し、メスはほとんど立てることはありません。地上で活動することが多く、足を交互に出して歩き植物の種子や昆虫類、クモを食べます。巣は草地の地上にメスが作ります。
翼を素早く羽ばたかせ一直線に舞い上がりながら高らかに歌う姿は春の風物詩で春告げ鳥とも呼ばれます。羽ばたきながら一点にとどまることもできるヒバリ。雲雀、告天子、叫天子、天雀など古くから親しまれてきただけに別名も多いですが、鳴きながら空高く舞う姿を連想させるものがほとんどです。ヒバリの名前の由来は日晴(ひはる)からヒバリになったという説が有力です。曇りの日でも飛びますがやはり青空に溶けこむように舞い上がる姿が印象的だからでしょう。
空高くさえずるばかりではなく、柵や杭に止まっても歌います。飛び立つときは垂直に上空を目指しますが、巣へ戻るときは巣の場所がわからないように巣から離れたところに降り、草むらの中を隠れるようにすたすたと歩いて移動します。
揚げ雲雀と呼ばれ、空高くさえずりながら舞い上がっているのは雄で、縄張り宣言でありラブソングです。さえずりの美しさはヨーロッパでも高く評価され、ハイドンの弦楽四重奏曲第67番の第1楽章冒頭の旋律はヒバリのさえずりのようだと言われ、「ひばり」の愛称がついています。
ヨーロッパではギリシャの守護神アテナの化身や高い徳と知恵を備えた鳥などとたたえられ、英名のskylarkは空の喜びを意味します。歌声は清浄な愛を表すとされています。一方日本ではヒバリが太陽に借金の取り立てをしているとした昔ばなしが各地に残っています。
とは言え日本人に古くから親しまれてきたことに変わりはなく、ヒバリをシンボルとしている自治体は多く、所沢市や入間市の鳥もヒバリです。これからも青空に揚げ雲雀が見られますように。
不安定なお天気が続きソメイヨシノの開花も当初の予想よりも遅れ10年以上前のように入学式のころにも楽しめそうです。急な気温の上昇は一気に季節を進めます。芽吹きも開花も雪崩のごとく押し寄せソメイヨシノを追い越す勢いでウワミズザクラも蕾を見せています。慌ててチョウたちも現れ、初夏へとなっていきそうです。
夜空にも春の大三角が見えるようになり春が本格的に訪れたことが感じられます。未明から明け方東南東の低空では火星と土星が接近し、4月11日には大接近します。日没後西北西の宵の空には4等級半ばまで明るくなると予想されているポン・ブルック彗星に注目です。『春宵一刻値千金』春風が花吹雪や花の香りも運んできてくれるかもしれませんね。
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