「ふれないで」と、ノアザミ咲き~ふれあいの里だより令和7年6月号~
早くも真夏日を記録したかと思えば春に逆戻りしたようになり、ぐずついた天気が続いた5月。暦の上では今年は6月11日が『入梅』ですが関東甲信地方は平年並みの6月上旬に梅雨入りが予想されています。
梅雨空に明るさを添えるかのようにノアザミが咲きます。ノアザミは本州、四国、九州の山野に生える多年草でもっとも普通に見られるアザミです。夏から秋にかけ咲いていくアザミの先駆けで、春から初夏にかけて咲くアザミはノアザミだけです。少し早くキツネアザミも咲きますが、こちらはアザミ属ではないのでだまされませんように。アザミ属は北半球に約300種あり、日本には150種以上ある大きな属です。アザミの名前の由来は古語の『あざむ』に由来するという説があり、美しい花に惹かれて近づくとトゲがあり、驚きあきれ、興ざめした。というところから来たというものや、沖縄地方の方言でトゲをアザと呼ぶことからついたといった説など諸説あります。また、『薊』という漢字は草冠に魚と刀で魚のようにトゲトゲした骨があり、刀のように刺す草を表しているとされます。
ノアザミの花は雄性期には盛んに花粉を出します。花を刺激するとトコロテン式に花粉を出し、花粉を出し終わると花柱が伸びて雌性期にはいります。花の付け根部分の丸い総苞は常に粘液を出してねばねばしていてこれがノアザミの特徴です。花期は長いので、夏になるとノハラアザミと区別がつきにくくなりますが、ノハラアザミの総苞は粘つきません。
根元には根生葉が花の時期に残るのもノアザミの特徴です。茎の中部から生えてくる葉は茎を抱くように生えてきます。どちらにも葉の縁と上面に無数のトゲが生えています。見るからに痛そうですが、新芽は食用になります。さらに、葉や茎を乾燥させて利尿作用、消炎作用に。また、根の汁を腫れ物や虫刺され、熱湯での火傷に塗って薬用としても利用されます。
野のアザミで野薊の和名通り広く分布し、最も普通と言われてきましたが、そんな日当たりの良い野が少なくなってきました。学名はCirsium japonicumで、古くから日本を代表するノアザミ。この時期良く目にするようになってくるチョウたちをはじめ様々な昆虫が花を訪れます。花言葉は『触れないで』ですが、つい手を伸ばしたくなるような花です。
交雑もしやすく厳密には区別が難しいと言われます。枝先に一つの花をつけているように見えますが、小さな花の集まりです。やがてそれぞれが種をつけ、タンポポのように綿毛をつけ風に運んでもらいます。より遠くへと新天地を求めるノアザミです。
梅雨の花と言えばアジサイを思い浮かべる人も多いことでしょう。アジサイには6月頃から発生するヨツスジハナカミキリが、花粉や蜜を求めて訪れます。森にはムラサキシキブの良い香りが漂い、先月咲いていたエゴノキは若い実をつけています。早くも実りの季節を迎えている木や若い実をつけている木。雨は大地を潤します。豪雨災害が目立ち始めている近年、穏やかな梅雨でありますように願います。
今年の『夏至』は6月21日、埼玉の日の出の時刻は4時24分。一年で最も日の出が早い時期ですが、未明から明け方、東の空で金星が輝いています。宵の西の空ではそろそろ見納めの火星が17日しし座の1等星レグルスと大接近します。1日に月と接近した火星は30日にも名残を惜しむかのように細い月と近づきます。19日の未明から明け方にかけては下弦の月と土星が東南東から南東の空で接近します。東の低空では明るい金星がこの光景を見上げているかのようでしょう。梅雨の晴れ間に少しでも星空が見られるといいですね。
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