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春告蝶、ミヤマセセリ

(所沢市HPふれ里だより平成27年3月号」より

『弥生』という言葉は、温かく柔らかい、いかにも春を感じさせてくれるものです。色でいえば桃色でしょうか。
陽ざしは春でも風の寒さが感じられることも多い3月ですが、足下にはオオイヌノフグリ、ハコベ、ホトケノザ、そしてアオイスミレなど。小さな草花たちがそれぞれの可愛い花を咲かせています。

まだ緑が覆い尽くさない落ち葉の積もった雑木林の地面にすっと飛んできて翅を広げるミヤマセセリ。「春が来たよ。」と言っているかのようです。
ミヤマセセリはほとんど日本全土に分布しますが、一部の都道府県ではレッドリストの指定を受けています。

幼虫はコナラ、クヌギ、カシワ、ミズナラなどのブナ科の葉を食べて育ちます。『深山セセリ』と名はついていますが、平地の雑木林から低山地帯、高地でも見られます。
早春にのみ発生するチョウで、スプリングエフェメラル(春のはかない命・春の妖精)の一つです。このあたりですと雑木林に春を告げるチョウとして親しまれ、3月中旬から4月上旬ころに出会えます。

まだ冬枯れの色が多く残り、冷たい風も吹く中、素早く飛び回っていたかと思うとふっと目の前の地面に翅を広げて止まります。落ち葉の上で、保護色のような赤みがかった茶褐色の地色ですが、なかなかシックで、侘びた風情も感じられ、春の陽光に良く映えます。
地味とも言えますがこれでなかなか個性的で、ほかの蝶と見間違えることはまずありません。メスの前翅の表面中央には白色帯があり、雌雄の区別がつきます。
寝ているときは前翅を屋根型にたたむ性質があり、日本ではほかの蝶には見られない特徴です。

食樹の新芽の付け根あたりに産み付けられた卵はやがて孵化し、柔らかい新葉を食べ育ちますが、成長はほかに例を見ないほどゆっくりのんびりで、深緑の頃も食べ続け、晩秋にやっと最後の段階まで老熟し、木を降りて地表の落ち葉を綴ってその中で冬を越します。早春一気にラストスパートをかけるかのように、そのままさなぎになり羽化します。まるでコナラなどの1年のサイクルに合わせているようです。

雑木林の減少とともに埼玉県でもレッドデータブックに載る存在となっていて、センター周辺でも数は多いとは言えませんが、毎年3月の声を聞くとミヤマセセリがすまし顔で目の前に現れ、「春だよ。」とクールに告げてくる日が楽しみになります。

弥生を待たず咲き始めたヒメカンスゲも春を告げています。ほころび始めてからなかなか咲かないクロモジが咲いたと思ったら、桜前線も間もなく到達することでしょう。ソメイヨシノと先を争うかのようにヤマザクラが咲く年もあります。 巣作りを始めたシジュウカラやヤマガラのさえずりが響き、冬越しに来ていたアオジの繁殖地へと帰る前の、束の間のさえずりも聞かれるかもしれません。春があちらこちらであふれ出します。


ミヤマセセリ

ヒメカンスゲ

ヤマザクラ


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