『誤解を解きたい』ヘクソカズラ~ふれあいの里だより令和3年8月号~
8月上旬は一番暑い時期です。野鳥も静かでチョウの姿も少なく、草木の花も目立ちません。
そんな中で元気よく咲いているのはヘクソカズラ(屁糞葛・屁臭葛)です。帰化植物には気の毒な名前がついていることも少なくありませんが、こちらは日本全土に分布しているつる性の多年草です。一首ですが、万葉集にも読まれています。
そう莢(けふ)に 延(は)ひおほとれる 屎葛(くそかずら)
絶ゆることなく 宮仕へせむ 巻16-3855 高宮王
ヘクソカズラは日当たりの良いやぶや草地、土手などに普通に見られ、左巻きでほかの木や草、時にはフェンスなどに絡まって長く伸びます。そっと近づいてみても特に臭いが気になるわけではありません。花や葉、実をもんだりつぶしたりすることによってその名の通りにおいます。庭に生えてくると厄介者とされることも多く、除去しようとしてその臭いに気づくことでしょう。
この臭いは葉をかじる虫よけのためだということながら、ホシホウジャクの幼虫はヘクソカズラの葉を食草とし、ヘクソカズラヒゲナガアブラムシは吸汁することにより体内に臭い成分を蓄積し天敵に食べられないようにしています。
英名でもskunkvineでスカンクのつる草、学名はPaederia scandens var. maireiで、paederiaはラテン語のpaidor(悪臭)が語源となっています。これでもかと言わんばかりに臭いばかり注目されているようです。
花言葉の一つに『人嫌い』がありますがこれもその臭いで人を寄せ付けないようにしていることに由来するとされます。身近にありながら実は人嫌いとは。
別名にはヤイトバナ(灸花)やサオトメバナ(早乙女花)があり、それぞれ花の中心にある紅紫色の部分がお灸の痕に似ているから、花を水に浮かべた姿が田植えをする早乙女の笠に似ているからついたとされます。
花期は7月から9月、小さく可憐な花を咲かせるところから『誤解を解きたい』『意外性のある』という花言葉もあります。
可憐なばかりではありません。全草、根も薬用で、果実には抗菌作用のある成分が含まれ、化粧水に使ったり、ひび、あかぎれ、しもやけなどの皮膚疾患に使用されたりします。根は下痢止めや利尿剤に使われます。これも誤解を解きたいや意外性のあるにつながりそうです。
果実は黄褐色に熟し、冬枯れの野で目立ち、生け花やリースによく使われます。
古くから人の近くで役に立ちながらもちょっと厄介な存在のヘクソカズラ。臭いばかりが強調されがちですが、誤解を解きたいものです。
クサギの花が、甘い香りで人も虫も一身に惹きつけているようですが、ヘクソカズラを訪れる昆虫も少なくありません。アリもよく花に来ています。
7月からユウガギクやヌスビトハギが早くも咲き始めています。お盆を過ぎるころには秋草も虫の音も増えてきます。ナツアカネに加えアキアカネの姿が見られるようになるのもそう遠くはありません。
『夏は夜』と枕草子にありますが、8月11日は細い月のしずくのように左下に金星が見え、12日深夜から13日明け方にかけてはペルセウス座流星群が極大、そして14日は伝統的七夕。この日の21時ころには天頂に夏の大三角アルタイル(彦星)、ベガ(織姫)、デネブが、東にはひときわ輝く木星と少し離れたところには土星。深夜に月が沈むと天の川が見やすくなります。明るい星も多い夏の夜空です。
静かだった野鳥たちの声もにぎやかになっていきます。秋の渡りの季節ははじまっています。短夜が明けると空には秋景色が広がっている日も増えてくることでしょう。
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