夕焼け空にアカシジミ
(所沢市HPふれ里だより平成27年6月号」より
春からいきなり夏になったような暑い5月でしたが、見る見るうちに新緑から深緑へと移り変わっていく森に吹く風は爽やかでした。
ヨーロッパでは西風は春を呼ぶそよ風で、豊穣をもたらす風ともされます。ギリシャ神話で西風の神はゼピュロス。この神の名を語源とするゼフィルスたちの季節の始まりを告げるのが、アカシジミです。
ゼフィルスは、樹上性のシジミチョウたちの1群で、ミドリシジミの仲間たちを総称して呼ばれていますが、極東アジアに集中して生存し、日本には25種います。センターの周りでは、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、オオミドリシジミが確認されています。
モンシロチョウよりも一回りから二回り小さく、金属光沢のあるものをはじめ、それぞれに美しい翅を持ち、糸のような尾状突起も可憐さを倍増させます。年に1度、このあたりでは5月下旬ころから6月下旬くらいにしか出会えないというのも愛好家が多い所以のひとつでしょう。
アカシジミはほかのゼフィルスたちと同様、卵で冬を越します。落葉広葉樹林を主な棲み処とし、幼虫の食樹の枝の分岐部や冬芽のそばに産み付けられた卵は、周辺にある植物の毛やごみなどでカモフラージュされているところはほかの卵と違うところです。
3月、孵化した幼虫は芽吹き前の芽の中にもぐりこみ食べ始め、さらに新葉を食べて育ち、やがて食樹の葉の裏で蛹になります。
食樹はクヌギ、コナラ、ミズナラなどで、同じくブナ科の常緑のアラカシやウラジロガシも食樹にします。
北海道から九州まで広く分布しますが、四国、九州ではまれで、国外では朝鮮半島、中国東北部、サハリン、ロシア沿海地方に分布します。
森のチョウとして知られ、山地性のものも多いゼフィルスたちですが、アカシジミはどちらかと言えば平地性です。意外と身近で出会っているかもしれないチョウです。
昼間は木陰の葉の上などにとまっていることが多く、この時期独特な香りを放ち虫たちに大人気のクリの花にもよく吸蜜に訪れます。
あまり活動は活発ではないので、写真を撮ったり観察したりするのには好都合です。ここぞとばかりに活動するのは日没前のあたりが茜色に染まるころです。
この夕方飛翔がアカシジミの特徴で、雄は雌を求めて樹上をひらひらと飛び回ります。名前の由来となっている朱い翅が夕焼けと相まってその美しさはひときわ輝き、まさに『飛ぶ宝石』です。
今年の梅雨は、前半は少雨の予報。最も太陽が空高く輝く季節を実感できるのかもしれません。
うつむき加減に咲くイチヤクソウやギンリョウソウは雨を忍んでいるようにも見えますが、コアジサイやミスジマイマイは雨を待っていることでしょう。
夕日に照らされるアカシジミの舞は楽しみたいものの、大事な恵みの雨も必要です。雨上がりの蒸し暑い宵はホタルたちの時間です。
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