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ワレモコウ秋の野に揺れて(所沢市HP「ふれあいの里だより平成30年9月号」より

吾亦紅、吾木香、我毛紅、我吾紅、割木瓜、吾妹紅。別名を多く持つ草花はありますが、これほど同じ名前で違う漢字があてられているものは珍しいのではないでしょうか。
名前の由来もあてられた漢字によりそれぞれです。吾も亦紅なり、吾(日本の)木香、我もこうありたい、など様々な説がありそもそもの由来はよくわからないようです。
奈良時代にはすでにワレモコウと呼ばれていたようですが、万葉集には詠まれていません。源氏物語には1回だけ、見栄えのせぬ香りのあるものと書かれ、徒然草には庭に植えたい秋草として出てきます。そして近年になるにつれ歌に詠まれることが多くなってきたようです。

我もまた 紅なりと ひそやかに(高浜虚子)
吾木香 すすきかるかや 秋草の さびしききはみ 君におくらむ(若山牧水)

ワレモコウは、北海道から九州の山野の日当たりの良い草地に生える多年草で、高さは30㎝から1mを超えることもあります。小さな花が密集した楕円形の花序は1cmから2cmで花弁はなく花弁のように見えるのは萼片です。
花穂は下から上に咲いていくものがほとんどでつぼみを増やしながら咲いていくものが多く、無限花序と言われますが、ワレモコウは花序の上から下へと咲いていき、つぼみが増えることはなく、有限花序と言われます。
咲いているのか咲いていないのかよくわからない感じですが、4本のおしべが見えれば咲いている証拠。生け花にもよく使われ、咲き終わった姿も風情がありドライフラワーとして人気があるのもうなずけます。

バラ科の植物は5枚の花弁、5個の萼片を持つものが多い中、花弁がないこと、萼片は4個など見た目通りバラ科としては珍しい存在です。地味なのに存在感があり、7月から咲き始めるものの、最盛期は9月で、秋を感じさせてくれる花です。
今年の十五夜は9月24日。十五夜にはススキとともにワレモコウもよく飾られます。秋の七草ではありませんが、1980年に植物学者の本田正次たちによって選ばれた新たな秋の七草には入っています。これも近年になって人気が出てきたということを表しているのでしょうか。

根茎は下痢止めや止血に使われ、学名のSanguisorba officinalisもsanguis(血)sorbere(吸収する)が語源です。
ワレモコウはうどんこ病や炭疽病にかかることがあるとはいえ、特に重症化するような病害虫がないとされます。ただ局部的に分布し、狭山丘陵では確認がないチョウ、ゴマシジミの食草として知られます。花穂に1個ずつ産卵された卵は孵化すると花芯を食べ終齢初期まで過ごし、地上へ降りてクシケアリを探し体から分泌物を出しアリにくわえられて巣に運ばれやがてアリの卵や幼虫を食べ越冬したのちワレモコウの咲くころ成虫になります。

とりわけ暑かった今年の夏、野鳥たちの渡りは少し早く始まったようです。
イチモンジセセリは急激に数を増やし、ツバメシジミ、イチモンジチョウなど、8月下旬から9月にかけ、目にするチョウの数も増えます。アキアカネに代表される赤とんぼたちもよく見られます。
赤く色づいたアオハダの実、紺色の実はアオツヅラフジ。実りの秋も来ています。

草原などの減少によりワレモコウは数を減らしています。秋の野に揺れるワレモコウ。「我も恋う。」秋空に向かってそう言っているようにも見える可憐な花です。

  ワレモコウ

  ツバメシジミ

  アオツヅラフジ



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