ノイバラ、5月の風に香りのせ
(所沢市HPふれ里だより平成25年5月号」より)
春が駆け抜けていったような4月。下旬にはセンダイムシクイや、キビタキなど夏鳥の声も聞かれるようになりました。やや高い山地や東北、北海道の繁殖地へと移動中のアカハラのさえずりも聞こえてきます。
すっかり緑の陰をつくるようになった、木々の間に見え隠れする野鳥たち。エナガやシジュウカラは、ヒナにせっせとガの幼虫などを捕っては運んでいます。
カマツカ、ミズキ、ガマズミ、次から次へと木の白い花々が初夏の訪れを告げているなか、ノイバラも径2㎝ほどの白い花を咲かせます。
沖縄以外の日本各地に自生するノイバラは、半つる性の落葉低木です。花弁は普通5枚で、時に薄いピンクを帯びる花を枝先に多数付け、果実は秋に赤く熟します。
和名の野茨は、野の茨、すなわち野のトゲから来ています。トゲで他のものに寄りかかり、繁っていく。繁殖力旺盛な、時には厄介者として扱われてきたようです。
古くはトゲのある低木を意味する『茨(うまら/うばら)』と呼ばれたようで、前述のような理由からあまり好かれてはいなかったのか、万葉集に2首だけ歌われています。
茨城県や大阪府茨木市の地名の由来にもなっていて、常陸国風土記には賊を討つために茨で城を築いたとか、茨で退治したなどの話があります。昔は花よりトゲに関心があったのでしょう。
日本以外では朝鮮半島に分布し、英名はJapanese roseで、まさに日本の野生バラの代表と言えます。耐病性、耐寒性、耐暑性、耐乾性、耐湿性に優れ、多花性でもあり、バラの園芸品種の台木にされます。
今日栽培されている、2万種にも及ぶと言われるモダン・ローズを作出するのに必要だった基本になる種は10種と言われ、そのうち、ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスの3種が日本に分布します。
もう一つの英名はEijitsu roseで、果実は営実(えいじつ)と呼ばれ利尿薬になります。エイジツエキスは腫れ物に効くと言われ、化粧品成分に使われ、皮膚の保護作用、収れん作用、抗酸化性、美白性、保湿性、皮膚細胞の活性効果を持ちます。
ほのかに良い香りを放つ花は、香水の原料にされます。可憐でしたたか、身近にありいろんな場面で人々の暮らしの中で息づいてきたノイバラです。
風薫る5月、ジャコウアゲハやクロアゲハ。チョウの数も増えてきます。エゴノキ、ネジキも白い花を咲かせ、ニガナ、ノゲシ、サイハイランも静かに虫たちの訪れを待っています。ヤブサメやオオルリなど、越冬地から帰ってきて、繁殖地へと移動していく夏鳥たちとの出逢いも期待できます。
生気溢れる森の散策が楽しみな毎日です。
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