繊細な縞模様、ウラナミアカシジミ~ふれあいの里だより令和4年6月号~
五月晴れの少なかった5月。木々は緑を深くしながらそれぞれに白い花をあっという間に咲かせていきました。
そろそろ梅雨入りですが、年に1度のゼフィルスの季節は始まっています。ギリシャ神話の西風の神ゼピュロスを語源とし、樹上性のシジミチョウの一群であるミドリシジミの仲間およびその近縁種を総称して『ゼフィルス』と呼ばれています。東アジアからヒマラヤにかけての地域に集中して生存し、日本には25種います。狭山丘陵では、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、オオミドリシジミ、ミドリシジミ、ウラゴマダラシジミが確認されています。
大きい個体でも前翅の長さが25ミリメートルで、翅表が緑色から青色の金属光沢のあるものをはじめ、銀白色、橙黄色などそれぞれに美しい翅を持ち、愛好者の多いチョウたちです。か細い尾状突起も可憐です。
年に1度、このあたりでは5月下旬ころから6月下旬くらいにしか出会えないというのも特別感があり興味をそそられます。
ウラナミアカシジミは北海道、本州、四国の平地、丘陵地、低山地の雑木林などに生息し、国外ではロシア沿海州、中国、朝鮮半島に分布します。生息域、個体数ともに楽観はできず、レッドリストの指定を受けている都道府県も少なくありません。埼玉県では2018年、絶滅危惧Ⅱ類から外されました。とはいえ以前はセンターエリアで目にするゼフィルスはウラナミアカシジミとミズイロオナガシジミが多かったのが最近ではアカシジミが多くなっています。ウラナミアカシジミの幼虫の食樹はクヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラ、カシワ、ナラガシワなどのナラ類ですが、若い食樹を好んで食べるので雑木林の減少とともに個体数を減らしているのではともいわれています。近縁種のアカシジミがそれほど数を減らしていないのは環境適応能力が高いからだと言われていますが、さらなる環境の破壊などで徐々に生息域が狭まってきていると言われています。
ウラナミアカシジミの卵は植樹に産み付けられ、産んだ後に枝の付着物を卵に付けて隠すので見つけるのは困難です。
翌春に孵化し、幼虫は巣を造って身を隠しながら葉を食べて成長します。4齢になると、遠くへ移動することはなくやがて葉の裏で蛹になります。
翅を開くことはほとんどないので、なかなか見ることは難しいのですが、表は鮮やかなオレンジ色で、ふちが黒くなっています。裏はオレンジの地に黒いドットできれいな縞模様を形成しています。
昼間は林縁や林内の葉上にいてあまり活動しません。ただ、特にクリの花で吸蜜している姿を見かけることもあります。夕方になるとオスは樹木の周りを活発に飛び回ります。アカシジミと行動パターンが似ていて飛んでいると区別がつきにくいのですが、止まると一目瞭然です。
梅雨の晴れ間に観られる『飛ぶ宝石』。いつまでも年に一度のゼフィルスの季節が楽しめることを願います。
今年はリョウブも早く咲き始めそうです。イチヤクソウやギンリョウソウの白は雨の中ほのかな光を放っているかのようです。大切な恵みの雨。雨の日の楽しみも、雨上がりの楽しみもきっと見つかります。
一服の清涼剤のようなムラサキシキブの香りが森に漂い始めました。ウグイスカグラやニワトコはもう実りの季節を迎えています。
シジュウカラやヤマガラ、エナガなど若鳥たちにも出会えるころとなりました。
今年は6月21日が夏至。埼玉県のこの日の日の出は4時25分、日の入りは19時1分。一年で一番昼間の時間が長い日です。
![]() ウラナミアカシジミ |